日本酒『玉笹』と双葉サービスエリア
6月下旬、山梨県の酒蔵・養老酒造さんの新酒『玉笹』完成の情報がTL上を駆け巡る。
『玉笹』は、毎年、ごくごくわずかしか醸造されておらず、一説には、昨年も完成から数ヵ月で完売したとのこと。
基本的には、実際に養老酒造さんに足を運ぶしか手に入れる方法は無い。
しかし、日本酒が大好きで、どうしても『玉笹』を手に入れたかった私は、車検が終わったばかりの軽自動車に乗り、山梨県へと車を走らせたのだった。
養老酒造さんへ
本来、片道2時間ほどの道のりを、愛用の『放課後ティータイムナビ』に翻弄された結果、3時間ほどかけて、養老酒造さんに到着する。
周辺には川が流れていて、果樹園や畑も点在しており、神社の鳥居が多く目立つ場所だった。
この時間は私一人しかおらず、観光で立ち寄るというよりかは、地元の人たちに愛されながら、ひっそりと根強く営業しているのだろうと思った。
お店の内装は歴史を感じさせるものながら、とても丁寧に人の手が入っており、1階が物販スペースに、2階がカフェスペースになっていた。
美しい味
15時を少し過ぎた頃に到着したので、ランチメニューは諦めていたのだけど、ありがたいことに頂くことが出来た。
夕方、白いタンクトップと短パン姿で、田んぼのあぜ道を走りながら、母の作る晩ごはんを待ちわびて帰宅していた少年時代の記憶が走馬灯のように蘇り、自粛期間中、ジャンクな食事に浸ってしまった五臓六腑に深く染み渡る一食でした……。(訳:涙が出るほど美味しかった)
— ケイスケ (@gkeisuke) 2020年7月7日
おいしいという言葉に『美』という文字が入っている意味を、実感させられるような食事体験だった。
素朴なメニューなのに、一つ一つの食材と味付けが本当に丁寧で、その丁寧さこそが、引きこもってコンビニ弁当やインスタント料理ばかり食べていた私に、深く深く染み入った気がした。
お漬物とか、あまり得意な方では無いのだけど、このお漬物は間違いなく美味しいんだろうなと思って食べてみたら本当に美味しかった。
美味しすぎて、なんか泣きそうになるくらいだった。
四万十川の鮎を食べた京極さんはこういう気持ちだったんだろうな。
食べている間、私の脳内では『故郷』が流れていた。*1
キッチンから、何気ない会話が聞こえてくる。
畑で農作業をしている時、流していた地元のラジオから、このカフェ酒蔵櫂が紹介されていたのだという。
まさに『地産地消』という言葉の通り、全国に大々的に広まる訳では無かったとしても、地元に愛され、地元に根差して、地元で育てた食材で、こんなにも美味しい料理を味わうことができる。
規模を大きくするのではなく、きっと丁寧に丁寧にそれを続けてきた結果、この場所が在るのだろうなと思った。
私はその姿が、とても「美しいもの」のように思えて仕方がなかった。
『玉笹』を買いに
ご飯を食べ終わった後『玉笹』を購入させて頂く。
居酒屋を経営している先輩の誕生日プレゼント用にと、2本買わせて頂いたのだけど、平日の昼間に、地元の人たちかマニアしか知らないような稀少な日本酒を、即決で2本購入するというムーブにより、只者ではなさが出てしまったかもしれない。
玉笹を買うことになった動機をお尋ね頂いたが、この前、バーベキューで知り合いに少し飲ませてもらって……という捏造の記憶を炸裂させてしまった
— ケイスケ (@gkeisuke) 2020年7月7日
私がそのバーベキューに参加してないというのが捏造箇所です
— ケイスケ (@gkeisuke) 2020年7月7日
これは僕も質問されたのですがその時に「今度BBQで飲むので多めに。(4本購入)」と言ったので線が繋がってしまいました。
— 立花伊吹 (@tiro1029) 2020年7月7日
基本的に地産地消される小規模な酒造にわざわざ遠方から新酒を買い求めにくる若者が続いたらそりゃあ気になるよね……
— 式島問 (@azamizm) 2020年7月7日
『玉笹』が出来た後、私だけでなく、日本酒が大好きな周りの人たちも購入に向かったようなので、同じくらいの年代の人たちが、たくさん『玉笹』を買いに来たことを不思議に思ったのだろう。
お店の方に「玉笹できたのよくご存知でしたねー」的な事を言われて「インターネットで見かけまして…」的な逃げをしたのは我ながら腰抜けムーブでしたね…
— けいせん (@y_ksen) 2020年7月7日
特に、今日は偶然、フォロワーさんと入れ違いになっていたので、養老酒造さん的にも『玉笹』が異様にたくさん売れる日だと思ったのかもしれない。
私自身、日本酒が好きと言っても、本格的に飲み始めたのは今年に入ってからなので、ここまで高価な日本酒を飲むのは初めてかもしれない。
『ビーズのように小さく削ったお米を手洗いし、低温でゆっくり醗酵させました』
という説明が、カフェでご飯を頂いた後だと納得しかなく、その丁寧さと美しさの限りを尽くした一本が『玉笹』なのだろうなと想像できる。
今から飲むのが本当に楽しみ。
養老酒造さん、今の状況が落ち着いたら、あるいは美しい食べ物が必要になったら、絶対にまた来ようと思う、居心地のいい大好きな場所になった。
双葉サービスエリア
帰り際、双葉サービスエリアに寄る。
長い旅路における、ひと時の憩いの場であるサービスエリアには、なんとなく、そこにいるだけでワクワクするような非日常感がある。
サービスエリアで一つ食べ物を買ってもらって、それを車の中で食べるのが、子供の頃の楽しみでもあった。
今年2月、静岡県のサービスエリアEXPASA富士川に行った時は、サービスエリア内で犬が散歩していたり、プラネタリウムや観覧車、オシャレなお店がたくさん立ち並んでいて、施設の大きさにふさわしい活況があった。
道の途中の休憩所としてだけでなく、地元の人たちにとっても、広く憩いの場として愛されて、笑顔に溢れていたその場所の光景が、とてもまぶしかったのだ。
なので、双葉サービスエリアの現状は、逆の意味で衝撃的ではあった。
多くの店が閉まっており、あまり人が来ないからか商品の陳列もまばらで、何より、その建物自体から生命力のようなものが失われかけているように思えた。
サービスエリアという場所は、想像以上に、新型コロナウイルスの影響を非常に大きく受けていた。
考えてみれば、緊急事態制限によって県を跨いだ移動そのものが自粛され、宣言解除後の今も状況が大きく変わったわけではない。
気になって、中央道最大規模のサービスエリアである談合坂にも立ち寄ったのだけど、こちらもお店は閉まっていたけど、比較的、人の手が入っていて、施設を利用するお客さんも多くいる印象だった。
サービスエリアは必要なものではあるけど、もしかしたら、今後は数が少なくなったり、人の手がいらない、最小限の施設だけが残ることになるかもしれない。
そう考えると本当に寂しくて、せめてアンケートを書こうと思ったのだけど、状況が状況なので、東京から来てわざわざアンケートを書くのは、むしろ今の状況に反しているのかもと思い直し、結局、何もすることが出来なかった。
この状況に、光が射す日が来たとして「これまでと同じ」というわけにはいかないのかもしれない。
それでも、また旅に出たいなと思うのだ。
今年の秋か、来年には新しく車を買おうと思っている。
旅には休憩が必要で、サービスエリアには元気でいて欲しい。
双葉サービスエリアでは、お土産をたくさん買って帰ってきた。
元気になった双葉サービスエリアと、元気な自分で、いつの日か再会できたらいいなと思った。
#ガルラジ 七夕でたまささ! (ガルラジ非公式ファンイラスト) pic.twitter.com/VZ7Q2NWcYF
— 冬野みかん (@fuyunopon) 2020年7月7日
*1:筆者は東京生まれ東京育ち